プロカウンセラーの聞く技術/コミュニケーション術

プロカウンセラーの聞く技術
プロカウンセラーの聞く技術

 「聞く技術」。聞くという当たり前の行為が一冊の本になって語られるほどのものなのだろうか。その疑問からこの本と対面した。 結論としては読んでよかったと思える本だったと自信を持って言える。我が身を省みて嫌な気分になった事は数回あったが。
 自分では比較的他人の話をよく(上手に、誠意と尊敬を持って)聞いているほうだと思っていたが、この本で説いているのはそんなレベルの話ではなかった。 いい意味での「聞き流し、あいづち」がもたらす効果や、相手と敢えて一線を画する効用などをも紹介している。
 うすっぺらな「テクニック集」でないことは、読み始めてすぐにわかった。 実は購入時にはこの著者である東山紘久さんというのも「30代の気鋭の心理学関係のプロ」だと思いこんでいた(なぜだか分からないが最近ビジネス書分野でそういう属性が多いからだろうか)ところ、なんと昭和17年にお生まれの大ベテラン。含蓄のある本書の言葉の背景がわかった気がしました。
 私は相手の話を本気で聞く際に、その話題の中に感情移入して聞くことにしていた。そうすることで「自分のこと」としてより本気で考えることができるからだ。 実はつい最近、約一年間応援していた人と決裂した。もう少しまっとうな考え方で仕事や組織というものに向かい合っていると思っていたからこそ私も何を置いても最優先で応対をしていたのだが、その日は私をガッカリさせるに十分なほどの余りにも酷い言動が続き、挙げ句は私自体を攻撃するような態度になる始末。 このときはまだ本書を読む前だったので私も本気の対応をした(5年ぶりに本心から激怒した)が、もし本書を読んでいたらば敢えて相手に感情移入せずに心理分析的アプローチにより対応できたかもしれない(少なくともそういうアプローチがあることを「知って」いて、そういうアプローチを取ることを選択肢として持てた)。
 たった一冊の本との出会いが数ヶ月遅かっただけで 相手にとっても私にとってもかけがえのないご縁が永遠に途切れてしまったことを、残念に思わざるを得ない。




プロカウンセラーのコミュニケーション術
プロカウンセラーのコミュニケーション術

「聞く技術」は 2000年の発行だったのだが、この本が大人気(なんと2007年12月に56刷!)だったのを受けて、2005年に出版されたのが「プロカウンセラーのコミュニケーション術」。話題としては前著と重なるものもいくつかあるが、基本的に前著とは別の視点でまとめられている。
 中でも含蓄が深かったのが 「プロカウンセラーは人格を鍛えていますので」の一節。 嫌なことをいっぱい聞かされたり攻撃されたり。それを自分の事としてまっとうに受け止めていてはプロはつとまらない。誠意を持って聞きながらも、まっとうに言葉の表層を捉えてそこでハラを立てない「高い人格」が必要と説いている。 何故相手はそんな事を言っているのか、その背景の分析に頭を巡らすというわけだ。 書くのは簡単だが一瞬でも不快感を持った後にそれができるようになるためには、やはり人格が鍛わっている必要があるのだろう。 どうやったら鍛えられるものなのかは分からないが。 (不快な事を聞き続けて我慢を繰り返す、なんて鍛え方もイヤだなぁ)


 具体例を交えながらの説明は、説得力が強い。 興味があるならば2冊合わせて読むことをお勧めしたい。両書とも 30章の小項目に分けられているので、細切れ時間を使って読むことも可能だと思う。ただし人によっては(私みたいに)深く考えさせられてしまう可能性もあるので、その点、意外と時間を使ってしまうかもしれないので注意。


 東山さん、お会いしてみたいなぁ。。今もどこかでカウンセリングやられていないのかしらん。。

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