グランズウェル

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)


 なんとも刺激的な本であった。 本書に書かれている内容のひとつひとつは私にとってさほど目新しいものでもなければ驚くほどの発想の転換があるわけでもない。だが本書で紹介される具体的な事例の数々や各事例で担当者そして企業トップらがどのように考えどのように振る舞ったのかの人間模様は、読んでいて興奮させられた。


 私自身は普段よりオープンソース系のユーザ会活動やその他IT系コミュニティ活動などをしている中から、いわゆる「クチコミマーケ」や「紹介の強さ」というのを実感している。 本書で説かれている「グランズウェル」もそういった人間の活動ひとつひとつが生き物のように集合し(人間は勿論生き物ですけどその集合体もまたひとつの生き物であるかのように)人間同士の関係によってマーケットや判断などが影響されていく。 この「生き物」は他者にはコントロール不能な状態で存在する、というと非常に不気味に感じるかもしれないが、1人1人の人間であっても互いを「コントロール」することなどあり得ないことを考えれば、グランズウェルのもたらす集合体をコントロールできないのはごく当然のことであろう。 


 本書の副題に掲げられている「ソーシャルテクノロジー」という言葉が表すように、顔の見えない「企業の誰か」が自己に陶酔しながらの自己満足的広報活動をしたり戦略を練ったりする時代には終わりを告げ、ソーシャルコミュニティによる、顔の見える人と人とのつながりでビジネスの成否が左右される時代に突入している。 本書はその先鋒的事例を多数紹介し、その考え方から失敗させる方法まで広く論じている。 
 本書を読めばビジネスで成功を収められる、とまで持ち上げるつもりはさらさらないが、本書を読んでいなければビジネスの成功は遠のくであろうことは容易に想像できる。 すべてのビジネスパーソンに本書の一読をお勧めしたい。


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