新・インナーゲーム

新インナーゲーム (インナーシリーズ)

新インナーゲーム (インナーシリーズ)

 最近読んだ本には頻繁に self 1 や self 2 という言葉が登場する。「本当はできる」自分(self 2)と、それに対して結果として邪魔をしてしまっている自分(self 1) という構図で、行動する人間の内面を表現し、その邪魔を上手に取り除くことで成功しよう、という考え方だ。
 その出典となっているのが、本書。1974年に最初の版が発行(日本語版は1976年)されたという、年季の入った本だ。内容は「テニスを上達するために」書かれたものであるが、根底にある考え方はとても普遍的なものであり、あらゆる自己の行動シーンに於いて役立つものだと、本書を読んだ今、確信する。
 本書は(あまりに長く生き残ったため)、2000年に改訂された。それが今回の「新・インナーゲーム」だ。


 自己の中には、よかれと思って自分自身に様々な指示を出し続ける「セルフ1」がいる。テニスの例だと「ヘッドをもっと平行に」「前屈みにならぬよう」「足を小刻みに、軽く浮かせて」「ボールが当たる瞬間にラケットが最高速になるよう」・・・など。 でも実はホンモノの良い動作を見たことがある場合「セルフ2」はその格好良い雰囲気を知っている。上記のような細かい注意事項ではなく「同じようにカッコヨク」で実はたいていのことはできるのである。というのがかなり意訳ではあるが本書の主張の趣旨と言えよう。
 私はテニスはしないのであるが、そういえば以前ボウリングをしていた際に何も考えずに無邪気に投げていてターキー(3連続ストライク)を出した後で「どこがよかったのかな」と考えてそれを再現しようとした途端に崩れたことを思い出した。逆に周りに連続ストライクを誉められそのまま調子に乗って「次も倒れるさ」といった(思い込みの)確信を持って投げたボールはまたストライクを仕留めることがあったように思う。これこそが「セルフ1に邪魔をさせない」例なのだな、と本書を読みながらこんなことを思い出したのだった。
 本書で紹介されている「セルフ1を黙らせる手法」の例として、テニスの場合、ラケットの動きや姿勢についてセルフ1に口出しさせない方法が紹介されていた。それは「ボールの縫い目をよく見て」という指示だ。おそらく縫い目なんてどうでも良いのである。ただそういう指示を受けたセルフ1は「どっちに回転している? 回転は速い?」などと縫い目に集中することでラケットや姿勢について一切口出しをしなくなるために、セルフ2は本来自分の持つ自然な動きができるといった具合だ。 もちろんセルフ2がそうやって自然に行動できるための何らかのインプット(時に数回のリピート訓練)は必要であると私は思うが、非常に説得力のある観点であると感じた。


 「やっぱりだめだったな」とか「ほらやっぱり失敗した」とか思わず口に出してしまう「セルフ1のかたまり」のようなあなたにはぜひ読んでいただきたい一冊。


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