開会式での「屋内聖火台4本のうち1本だけ立ち上がらなかった事件」。それが失敗ではなく2週間半という長い大会期間を股にかけた壮大な演出に変わった瞬間だった。バンクーバー五輪の閉会式。その演出手法に、見ていて鳥肌が立った。
閉会式開始前、そこにあるのは開会式の「失敗」のままの姿の聖火台だった。見ていて胸が締め付けられる思いになる。本来4本立っているはずだった柱、どれほど準備してきたのだろうか。結局その1本は一切の役目を果たすことなく闇の中に眠り続けたのだ。
そして閉会式開始。4本目の柱の位置の床(フタ)がするすると開き、中から火花。そしてニワトリが飛び出す。こいつか、悪さをしていたのは(笑)。道化師が這い出してきてプラグをつなぐと、17日間眠っていた4本目の柱は静かに起き始めた。
なんという演出! あれは「失敗」などではなかった。4本目の柱は閉会式で起きあがるために開会式ではわざと起きあがらせなかった。そう信じたくなってしまう見事さだ。
別のすっぽんからは、聖火を手にしたルメイドーンが。 「ここはどこ?」とでも言うように少し上体をかがめてきょろきょろする、結構な役者ぶり。そして17日前には果たせなかった点火を、今回はたった一人で行った。 開会式と閉会式がつながり、17日間のすべてがひとつの有機的なつながりを持った瞬間だったといって良いだろう。
そして旗手入場では、ジョン・ウィリアムスのロス五輪のテーマ。気づけばあれから四半世紀。この長い間にこの曲を越える五輪テーマ曲が1曲も出ていない。色あせず響くこの曲が、17日間だけでなく30年近くもの時をもつないだ。
その後のお祭り騒ぎは、録画を長めにセッティングしておいた我が家の先読み力を嘲笑うかのように途中から教育テレビに映り、最後まで見ることはできなかった。だが、私にとってこの五輪の閉会式は最初の数分で十分なものだったと言える。
この大会の演出家に、スタッフに、選手たちに感謝したい。
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