行動科学マネジメント

短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント

短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント

 amazonから到着したこの本の奥付を見ようとして開いた途端、私は「ハズレだった!」と思いました。奥付の右側のページ一面を使って、著者が主催する研修プログラムの案内とメルマガの宣伝が書いてあったからです。あぁこの本で一番言いたいことはコレなのだなと、いきなりサスペンスの犯人を知ってしまったようで興ざめしました。 この本一冊かけて「いいところ」まで教えて、でも大切なところは隠して「続きはセミナーでね」という、あの手の本だという印象を受けたのです。


 しかしそんなことは杞憂であると、読み進めるうちに確信しました。行動分析学をベースとして編み出した手法を簡潔にわかりやすく解説してくれています。今「手法」と書きましたが、単なる手法(HOW=こんな資料を作りなさい、こう行動しなさい)ではなく、何故(WHY) やなんのためにといった事が熱く語られています。インパクトありました。本書のコアは「即時経過が見えるちっちゃい喜びを繰り返していこう」ということだと理解しています。シールを貼っていったり棒グラフを伸ばしていったり、ブログの脇にあるカレンダーすべての日にリンクをつけるぞと頑張って日記を書いたり、というのがそれにあたるでしょう。


 ABCモデルやPST分析などの手法は、まず物事をシンプルに分析する方法としてとても興味深く感じました。ABCモデルは「先行条件(Antecedent)、行動(Behavior)、結果(Consequence)」の要素からなります。ABCモデルにおいてある時の結果に応じて次回の行動が変化する、たとえば「先行条件:今日は結婚記念日だ/行動:花を買って帰る/結果1:喜ばれた。結果2:無視された」というABCの場合、結果1と結果2では次回の行動に差が出るという例を挙げ、マネジメント(組織内の教育)において継続してモチベーション高く活動してもらうためには何に着目したら良いかを説いています。PST分析は、最初すごい分析手法だろうと思っていたら「Positive, Sokuji, Tashika」の頭文字だそうで思わず笑ってしまいました。これは「タイプ、タイミング、可能性」の3つの軸で条件を分類したもので、タイプは PositiveまたはNegative, タイミングは Sokuji か Ato、可能性は Tashika, Futashikaがあります。 PTS な条件(肯定的でスグに結果がわかり確かに効果がある)だと人は楽しく感じ行動を続けるし、NAF (否定的で結果がいつまでも分からず、しかも結果が出るかどうか確かじゃない)だとモチベーションはあがらない。その他PSF, PATなどの組み合わせによって本人の前向きな行動に寄与する強さに変化があるというわけです。PSTな状況を作り出すように、チームのマネジメントをする立場の人は常に心がけたいものです。
 その他、プレイヤのまま部下と競ってしまったダメマネージャの事例(P130)、リインフォース(強化;行動を増やす手順) R+-, 罰とペナルティ P+-, 無視 E などの外部要因によってどのような行動特性を示すかの解説など、非常に興味深く読みました。


 このような「人を操る」かのような手法は、非人間的だとか動物を手なずけるようでイヤだという拒否反応は少なからずあるらしい。著者が本書で最後に語った以下の言葉でこのエントリ最初に感じた疑心暗鬼は晴れたのでした。(括弧内は私の補足)

 ロボットみたいに人を操るとか、社長が儲けるための理論といった捉え方はやめていただきたい。仮にそんな使い方をしたところで長続きしないだろうし、紹介者として迷惑である。(略)
 導入するときには、(みんなに)全てを包み隠さずに話してほしい。この本を回し読みでもして、全員がメソッドの概要を理解してから始めていただきたいのだ。人の行動を支配しようと考える人や、ロボットのように動かしてやろうと考える人に対しては、何ひとつお教えしたくない。それが私の本音である。