ゼンリンミュージアムへ2度目の訪問~「北海道」を知る

 FOSS4G KYUSHU に参加した帰り道に、ゼンリンミュージアムへ寄ってきました。企画展は「これって北海道!? 蝦夷地のカタチをたどる」。
 前回は1年半ほど前の訪問で「忠敬と赤水」をやっていました。
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慌ただしい訪問

 前日まで福岡で開催されていたFOSS4Gイベントから一夜あけて、アサイチで新幹線で小倉へ。お盆時期なのでのぞみ号には自由席はありませんが、それ以外の新幹線には自由席があるので、2000円程度で移動することができます。線状降水帯による大雨が続く中ではありますが、ミュージアムへの道の半分くらいは屋根付きのアーケード街の中を通っていけるのは助かりました。 10時のオープンとほぼ同時に受付。そういえば前回は受付も14階にあったのですが、いまは受付を4階で、その後エレベータで14階へ、という流れに変更されていました。今年6月6日にリニューアルされたとのことで、その時に変わったのでしょうか。
 帰りは12時台の新幹線を予約していたので、そこまで2時間強の時間がありましたが、ゆったり見て、お話を伺っていたら全然時間が足りませんでした(人によっては30分くらいでも十分かもしれませんが、ひとつひとつをじっくり見てしまったので。。。)

企画展「これって北海道!?」

 今回の企画展は北海道に関する認識の変遷を辿るものでした。国内での地図、海外から見た地図などが多く展示されています。東北地方までは認識されていても、その先の島(北海道)はよく分からなかった時代が長かったようです。 大きくなったり小さくなったり、奥のほうがよく分からないから大陸と繋がっていると考えられたり、樺太間宮海峡が明らかになるまで半島と思われていたりなど、まさに北海道に歴史ありです。 興味深いのは、江戸幕府が各藩に自領の地図などの情報を出すように通達した際、松前藩が北海道を極端に小さく申請したために、極小の北海道が存在する地図があったことです。自らのもつ権益を隠したり、上納金(税金)を少なく計算させようという、謂わば詐欺のようなものですが、それが歴史にこうやって残るのは面白いし、まるで明治の地租改正のときに顔の利く人は「たのむよ、小さく描いておいてよ」と税金を減らすために言ったか言わなかったか、現在に残る登記所備付地図上でも極端に小さな敷地が残ってしまった話とも似ていて、興味深かったです。

常設展

 ゼンリンミュージアムは、常設展第一部(地図の歴史)→企画展(北海道)→常設展第二部(海外の地図の中のニッポン)→常設展第三部(伊能図)→常設展第四部(現代の応用活用)という順路になっています。企画展の部屋を出て、第二部をぐるりと見て回って疲れたのでベンチで小休止。第二部の展示は私にとっては(このミュージアムの中では)興味の薄いところで、概ね国内から流出した何種類かの地図を元に、中国などでの話を聞きとったり想像力を膨らませたりしながら描かれたものだという理解です。いわゆる「コタツ記事」的な地図であるところが、惹かれない理由と言えるかもしれません(これはこれで経路や元情報にしたものなどを突き詰めていくと面白いのでしょうけど)。その中でも、地図に描かれている国内の地名は面白いですね。今にも残る地名が既に知られていたことに驚かされます。

伊能図

 大好物の伊能図のコーナーへ。基本的にミュージアム内撮影禁止なのですが、ここの床に描かれた伊能図は撮影可能となっています。あとたぶん前回は置いていなかったと思うのですが、タブレット端末にて Google Mapsを見るかのように伊能図を拡大縮小して見られる展示が増えていました。これはとても良いですね。家でもできないかと検索してみたら、現代地図と重ねて見ることができるものが販売(利用権)されていて、初期費用15万、年間2万といった料金がかかるものでした。「見てると楽しい」のレベルで利用できるものではありませんでした。


 ここでキュレーターさんにたくさんのお話を聞かせていただくことができました。ありがとうございます。特に響いたのが、伊能図の歴史と現存のお話。どの伊能図がどの機関が所有しているのかといった一覧の展示パネルがありました(ゼンリンさんも最近3種を入手されたそうで、重文であるその地図の大きなレプリカが展示されていました)。千葉県の佐原にある忠敬記念館がその一覧にない(=所有していないことになっている)のを不思議に思い訊ねたところ、打てば響くような説明をいただきました。これがこのミュージアムのすごいところですね! その話を元に解説すると:

  • 伊能図は完成した「原本」が幕府に納品されたが、燃えてしまってひとつも残っていない。今残っているのは「副本」と呼ばれる写し。
  • 納品物を作るまでにも、いくつかの「納品物に近い試作品または前段階品」というものがある。
  • 佐原にあるのは、この前段階品。ある意味、副本以上に本物に近い存在だとも言える。

 ・・・・知らなかった。。以前訪問した当時は、今以上に知識もなかったこともあって「伊能図っていうものが1種類あって、そのホンモノが展示されているのだなぁ」ぐらいの認識だったような気がします。これはいま改めて見に行きたくなってきました。

京都改暦所について

 伊能図では経度は京都を本初子午線として描かれています。この場所について漠然と京都だという認識しか持っていなかったのですが、改暦所があった場所だということで帰宅後に調べてみました。

  • 京都の月光稲荷さんのカドあたりだったとのこと。
  • 月光稲荷さんは、京都市中京区月光町 にある(そのまんまの名前)
  • 東西位置は、西大路千本通の間(ちょっと広い表現だけど私が知ってる通りの名前を使うとこうなる)
  • 南北位置は、おおざっぱには二条と三条のあいだ、もう少し細かくいうと姉三六角蛸錦の姉小路の通り北側に神社はある
  • おおよそ 東経135.737346度あたり(WGS84
  • 京都改暦所があった場所だという碑のようなものは特に存在しない模様

 原点好きとしては、ここまで特定できたのであれば行かざるを得ません。機会を狙っています(笑)。

時間切れ

 キュレーターさんにたくさんのことを教えていただき、また、話題を打てば響くのが嬉しくなってつい色々語ってしまい(平面直角座標原点とか)、伊能図のセクションで残り時間が危なくなってきました。最後の「応用利用活用」的な部分は、概ね最近も頻繁に触れている話題なので、さらっと(贅沢にもキュレータさんのコンパクトにしていただいた解説を聞きながら)見学しました。次回はゆったり見る!常設展示なのですぐに入れ替わることはないでしょう。 点群については「きれいですね」を超えた活用を今ひとつ見いだせていないのが今後の課題と感じています。ここでもやっぱりそう。AIを使って物体を同定したり、それを自動運転に役立てたりするところは進んでいそうですが、「データとして」「数値的な何かの処理を」というのがどうしたらいいのか、私もまだ全然わかっていません。 現状は「3Dで見ることができる Google Street View」かなぁ。

自称My伊能図

 伊能図の話をしたならば、やはりこの図を出さねばなるまい。私の移動ログ、すなわち 2018年頃からの主なGPSログをプロットしたものです(一部その少し前の、別機器でのログも含まれる)。「日本のカタチ」を認識できるようにするためになるべく沿岸付近を通るように意識しているので、その点が僭越ながら忠敬と似ているかもしれないなと思っています。

そして帰路へ

 ミュージアムにはカフェもあるので、そちらで真っ白に雨降る外の景色を眺めながらコーヒーをいただきました。このミュージアムはキュレーターさんと(タイミングが合えば)お話できるのが最高のオモテナシなのですが、それ以外にも来場者をよく見てくれているのを感じます。奥の方の部屋でお手洗いの場所を訊ねれば教えてくれたあとでフロントへもインカムで伝えてスムーズに案内してもらえたり、雑談の中で帰りの新幹線の話をしたのを受けて、インカムでバックオフィスあたりに確認をしてくれて、珈琲を飲み終わったあたりで「帰りの新幹線は今のところ動いていると言う情報」を教えてくれたり、何から何までお世話になりました。新幹線については、止まってしまうことをあまり考えていなかったのですが、実は私が乗った上りのぞみ号のちょうど1時間後に乗る予定だった知人は「終日運休」に巻き込まれて帰れなかったので、本当に間一髪だったのかもしれません。
 九州を無事に脱出(?)した私の新幹線はその後、三島付近の線状降水帯の影響で30分ほど遅れることになったのですが、それでも無事に家に帰り着けて良かったです。時間に余裕がなくて今回は地図のお店「マップデザインギャラリー」には立ち寄れなかったのですが(あと、ミュージアムから1階まで一気に降りてしまったのでミュージアムに行けない方の出口に出てしまったこともありますが)、新幹線の20分程度前には駅にたどり着き、お弁当や飲み物などを確保してホームへと向かえたので、ちょうど良い時間タイミングだったと言えるでしょう。

 興味のある企画展が開催されるタイミングで、またゼンリンミュージアムに行ってみたいと思える、楽しい時間でした。 ありがとうございました。


帰りに気づいたのですが、小倉駅にも広告看板が出されていました!